旅と散歩の話

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【マギレコ9章考察】「羽根」と「認知的不協和」の話

 宗教上あるいは政治上の信念の創始者たちが、それを創始することができたのは、ひとえに、宗教的な狂信的感情を群衆に起こさせる術を心得ていたからである。この感情は、人をして崇拝のうちにその幸福を見出させ、また人をかつてその偶像のためには生命を犠牲にさせるていのものである。

 

ギュスターヴ・ル・ボン(1993) 『群衆心理』(櫻井成夫訳)講談社学術文庫.講談社 pp.90-91

 最近になってサントラをようやく購入しました。
 曲目のリストを見て初めて気が付いたのですが、マギウスの翼(以下マギウス)の本拠地「フェントホープ」の綴りって「fenthope」だったんですね。「fent」には防御する(※)、「hope」は希望という意味がそれぞれあります。
 そして「Surround(サラウンド)」の意味は「包囲」ですから、9章のタイトル「サラウンド・フェントホープ「包囲された守るべき希望」という意味になりますね(マギウスの視点で見ると)

※「fent」の訳については翻訳サービスによって「防御する(英辞郎)」「残映(weblio)」「作成(google検索)」とバラ付きがあり、どれが正しいのか、それとも全て正しいのか、正直よく分かっていません。とりあえず今回は「防御する」で仮定して話を進めています。

「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」 Music Collection

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タワーレコードでは試聴も出来ます。お気に入りは「Welcome to Mirrors」と「Uwasa-san」

 さて、9章の見どころの一つとして「羽根に個性がある」点が挙げられます。
これまで「羽根」という集団はいわゆる「名無しの一般兵」という扱いでしたが、本拠地の守りに付いてる羽根の一部には特徴的な髪型をしている者がおり、さらには、みかづき荘のメンバーに自分達の過去を語るシーンもあります。ある者は妹が魔女に変貌し、またある者は自分達の町で平穏に生きることを望むなど、彼女たちも一人の魔法少女であることが伺えます。
 しかしそうしている間にも神浜市に「ワルプルギスの夜」という大きな厄災が訪れようとしています。
 そして誰にも知らされていなかったマギウスの真意が明らかになった時、彼女たちは「認知的不協和」に陥るのです。

「サラウンド」には「音響」という意味もある。物理学の世界では「音波」として扱われ、「周波数」や「波長」などの特徴を持つ。

 

「認知的不協和」とは

 「認知的不協和」とは自分の中の認識と矛盾が生じたときに起こる心理現象を言います。
 例としてよく言われるのが「喫煙者と肺ガン」の話ですね。「タバコを吸うと肺ガンを患いやすくなる」という情報を知ったとき、喫煙者はどのような行動を取るのでしょうか?
 合理的に考えれば「喫煙を止める(禁煙する)」という行動を取るでしょう。しかし、タバコに含まれるニコチンは依存性が高く、なかなか禁煙が難しいとされています。もちろん、禁煙に成功するまで何度でも再チャレンジする人もいますが、その一方で諦めてしまう人もいるのです。
 そして、諦めてしまった人達は次のような行動や考えをすると言われています。

  • 健康情報(TV番組など)を見ないようにする
  • 喫煙者でも長寿の人が居る(と考える)
  • 交通事故の方が死亡率が高い(と思い込む)

 このように合理的な判断が出来ない場合、「肺ガンになる」という「不都合な考え」から自分を遠ざけようとするのです。これが「認知的不協和」です。私は喫煙者ではないので禁煙がどれほど難しいものなのかは分かりません。しかし、依存症の高いニコチンの克服がカギとなっている訳ですから、並大抵の努力では難しいと思います。

ギャンブルなどで自分が賭けたものを過信してしまうのも認知的不協和の1つ。反証する情報を集めない「確証バイアス」もある。

 

「羽根」と「認知的不協和」

 ではこれを羽根になぞらえてみましょう。
 そもそも、マギウスという組織は「魔法少女の解放」を謳った組織でした。「魔法少女の解放」とは「絶望的な結末」を阻止するためのもの。希望を叶えるために魔法少女となってしまうと結末は「死ぬまで戦う」か「絶望して魔女に成り果てる」かのどちらかしかないのです。
 その結末を変えるために現れたのがマギウスという組織。「解放」を求め、多くの羽根(となる魔法少女)が神浜市の内外からマギウスの元に集まりました。
 しかしこれは表向きの姿。真の目的は別にありました。
 それは「宇宙を救うこと」・・・に便乗して私利私欲を満たすこと。その目的の為には魔法少女はおろか、関係のない市民を犠牲にすることも厭いません。そして神浜市は今まさに大規模な自然災害(ワルプルギスの夜)に飲み込まれようとしているのです。
 その過程で初めて羽根達は気付かされたのです。「自分たちは利用されていた」と。
 絶望に叩き落とされた彼女たちは2つの選択肢を強いられることになります。1つはマギウスを裏切りワルプルギスの夜を止める。もう1つは最後までマギウスに従う。そしてここで「認知的不協和」が生じるのです。

 

ワルプルギスの夜が襲来する中で立ち尽くす白羽根と黒羽根。神浜市には大雨警報と洪水警報が鳴り響き、風雨は収まる気配がない。

 

魔法少女」という苦しみ

 合理的に考えるとマギウスを裏切り、ワルプルギスの夜を止め、神浜市を救う、という選択肢を選ぶのが当然だと思います。
 しかし、禁煙の苦しみが喫煙者にしか分からないように、魔法少女の苦しみは魔法少女にしか分かりません。

 「マギウスを裏切る」ことを選べば「神浜市を救う」ことに直結します。しかし、それはマギウスが掲げる「解放を諦める」ということにも繋がります。
 反対に「マギウスに従う」ことを選べばこれまで通りマギウスの下で動くことを意味します。しかし、それは「神浜市を滅ぼす」ことに加担することになります。

 マギウスに頼らない「解放」があるかどうかはストーリーで最も重要な部分となっています。しかしそれは9章の時点では明らかにされていませんし、あるかどうかも分かりません。
 その一方でマギウスは羽根の一人一人を「手駒」として扱っています。実際、8章前半では自意識を奪われ「殺戮マシーン」と化した羽根と戦うイベントが数多くありました。無事に「解放」を迎えられる保障はどこにもありません。

巴マミがマギウスの真実を語るシーン。組織の末端である彼女たちにこれまで真意は知らされていなかった。理想的な世界を掲げておきながら、徹底的な情報統制が敷かれる様は「ディストピア」を思い起こさせる。

 

一般兵にもストーリーがある

 「羽根」という集団は「名無しの一般兵」という位置づけですが、その一人一人にもストーリーがあるのです。魔法少女になって叶えた希望もマギウスに加入したきっかけも様々。そしてそれぞれに家族があり、故郷があります。目深に被ったフードから表情を伺うことは出来ませんが、その下には別個の魔法少女がいるのです。

 結果的にはマギウスから決別した巴マミと梓みふゆの説得により、全ての羽根は戦意喪失状態に陥ります。第10章で彼女たちがどう動くは分かりませんが、見どころの一つになると思います。

梓みふゆが天音姉妹の力を借りて説得するシーン。音響(サラウンド)の力により羽根(魔法少女)の希望が守られる(フェントホープ

 

……そういえばマギレコって、アニメ本編10話から分岐したストーリーだったな。すっかり忘れてた。

ではまた(´・ω・`)ノシ

 

参考書籍

社会心理学 (放送大学教授)

社会心理学 (放送大学教授)

 

 

予言がはずれるとき―この世の破滅を予知した現代のある集団を解明する (Keiso communication)

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参考URL
認知的不協和 - Wikipedia
音 - Wikipedia
喫煙者の4人に1人が禁煙に挑戦するも、うち7割は失敗:がんナビ

 

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